電脳けん玉職人

らくがき

マリス・ヤンソンスのブルックナー9番

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映画の日」にかこつけてユーロスペースでも行くかと思いたち、渋谷に赴いた矢先に指揮者マリス・ヤンソンスの訃報を知った。


正直なところ、マリス・ヤンソンスの演奏はあまり好きではない。その美点でもあるクールさが、個人的には「不完全燃焼」と思えてしまうからだ。しかし私は、ヤンソンスのことを非常に尊敬している。なぜなら、マエストロはどんな時も確実に、80点以上の演奏をするからだ。ネヴィル・マリナーと並ぶ、真のプロフェッショナルだと言えるだろう(実演に接したこともなければ、全てのディスクを聴いているわけでもない立場でこんなことを言う傲慢さは重々承知している)。


渋谷に着いて、そのままタワーレコードへ向かった。CDを買うこと自体が久しぶりだし、特に新品のCDを買うのは本当に(いつぶりか思い出せない位に)久しぶりなのだが、僅かでもいいのでヤンソンスの家族に香典を送りたいと思い、コンセルトヘボウと録音したブルックナーの9番を購入した。映画はパスしてそのまま帰宅し、プレーヤーの前へ。新品のCDの包みを剥がすのに苦労してしまった。


控えめの音量で聴くブルックナーの9番は、スタティックで素晴らしかった。いつも気になっていたヤンソンスの「不完全燃焼感」もなく(むしろ良い面で発揮されており)、曲の良さを改めて感じさせる演奏だった。演奏家の存在を消し、曲の良さだけを実感させる演奏家は間違いなく一流であると思う。


久々に訪れたタワーレコードクラシック音楽コーナーは、スペースが縮小しており少しショックを受けてしまった。あるのが当たり前だった音楽の場所が消えて、いるのが当たり前だった音楽家が去ってしまったことに悲しみを禁じ得ないが、いつまでも過去の思い出に浸っているのもまたナンセンスだ。我々音楽愛好家にできることは、素晴らしい音楽を提供してくれる人や場所にお金を落とし、文化が重要視される環境を作るために小さなアクションを起こしていくことだ。

 

 

エストロ、長い間ありがとうございました。今後も素敵な音楽が栄えていけるよう、これからは私たちが頑張っていきます。今までお疲れ様でした。どうか安らかに。


2019年12月1日鑑賞

 

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