渡辺裕『聴衆の誕生ーーポスト・モダン時代の音楽文化』
まず、やはりこの本は1989年に書かれたんだなということがよくわかった。企業の名前がデカデカと掲げられた冠コンサートや、「特別感」にあふれた存在としてのサントリーホールなどの記述は、古文書を読んでいるようだった。
ただ、解説でも触れられていた通り、歴史記述における著者のポジショナリティがきちんと意識されていたのは良かった。僕の友人は「それはソクラテス以前の相対主義に戻ってしまう」と言って怒り出しそうだけど……笑
あと、タイトルの縛りからして仕方がない部分はあるのだけど、「軽薄な聴取」的な風潮が演奏者のマインドにどう左右していったかを書いてほしかったかな。「第九」現象などで観客と演者の融合は指摘されていたけど、やはり両者はいまだに大きく違うと思うので。
良い本でした。
2020年1月11日読了