電脳けん玉職人

らくがき

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

中井治郎『パンクする京都ーーオーバーツーリズムと戦う観光都市』

久々に会う親友が最近読んだと言っていたので、大急ぎで入手した。 オーバーツーリズムという単語のもとに、京都の現状と地元民の憂鬱、そして京都表象の歴史が語られる。たしかに問題ではあるのだけど、オーバーツーリズムが排外主義や国粋主義に繋がらない…

恩田陸『六番目の小夜子』

右手を掲げるマジシャンの左手にはタネが仕込まれているように、小説内で提示される様々な要素の裏には何かが潜んでおり、その対応関係は見事だった。そして、左手に仕込まれたタネの鮮やかさに驚くと同時に、右手そのものの美しさにも感嘆してしまった。 20…

シェイクスピア(松岡和子訳)『マクベス』

魔女文化がわかれば、もっと楽しめたかなあと思う。それでもやはり、最終場面の予言の裏切り(?)は圧巻。 2019年12月23日

シェイクスピア(松岡和子訳)『ハムレット』

一気呵成に描ききる筆力には脱帽するけど、ところどころ見られるミソジニーが少しキツい。 2019年12月23日読了

トルストイ(中村白葉訳)『イワンのばか』

頭脳だけに頼りすぎないこと、労働の重要性、そして宗教心を説いた民話集。めちゃくちゃ良い作品だけど、「市民は馬鹿であれ」という暴力に使われたら嫌だなと思った。 2019年12月21日読了

桜庭一樹『青年のための読書クラブ』

5つの物語からなる短編集。女子校の読書クラブの変遷が描かれる。エピグラム形式なこともあり、絶対元ネタ知ったら楽しい系。 2019年12月20日読了

ベートーヴェン・ツィクルスその3

第3弾はアーベントロートによるエロイカ。もともとあまり得意な曲ではないけど、演奏もちょっとノーサンキューだったかな。 2019年12月20日鑑賞

ベートーヴェン・ツィクルスその2

ベートーヴェン・ツィクルス第2弾。今回はハンス・クナッパーツブッシュが指揮するウィーンフィルによる、1953年の録音を聴いた。 まず「録音悪すぎ!」と思ってしまった。もちろんモノラル方式だし、ムジークフェラインだから録音も難しいんだろうけど、い…

ベートーヴェン・ツィクルスその1

年末だしベートーヴェンの交響曲を聴きなおそうと決意。せっかくだし、毎日一つの交響曲を、それぞれ違う演奏家で聴いてみることにした。 最初は交響曲第1番。演奏はアルトゥーロ・トスカニーニとNBC交響楽団による1939年のもの。 当たり前だけど、The トス…

アガサ・クリスティ(安原和美訳)『オリエント急行殺人事件』

一気読みしてしまった…… 面白かったんだけど、やっぱりある程度リテラシーないとわからないな……と思う箇所がいくつかあった。 2019年12月17日読了

伊藤比呂美『良いおっぱい悪いおっぱい【完全版】』

「胎児はウンコである」「がさつずぼらぐうたら」の言葉により、神話化された母性を解体した様は素晴らしいと思う。でもやっぱり、ジェンダー的に気になる点も少々…… 2019年12月17日読了

プーシキン(池田健太郎訳)『オネーギン』

やっぱり僕は詩が苦手、というか文章そのものを楽しむのが苦手だなと思った。風景描写自体に感心するということがほとんどないので、正直なところ冗長に感じた(決して長い作品ではないのに)。ニュアンスだけでもロシア語についての作用があれば、もっと楽…

三浦良邦『『すばらしい新世界』の二つの社会について 』

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/25753/OLR13-099.pdf とりあえずのあらすじ紹介と、作者のその後を語る。これ論文というより読書ガイドでは…? 2019年12月14日読了

長唄シンポジウム

長唄住吉会の100周年を記念して行われたシンポジウムに参加。 歌川光一さんが「三味線音楽の奇跡と未来ーー「遊芸」から「たしなみ」そして「アイデンティティ」」と題したプレゼンテーションを行ったのち、パネラーの米原さんと高橋さん、および司会の吉住…

オルダス・ハクスリー(大森望訳)『すばらしい新世界』

素晴らしいディストピア小説だった。生産の管理、階級の決定、文化や宗教の否定あたりは「ザ・ディストピア」って要素だなと思うんだけど、「みんなはみんなのもの」というスローガンのもとでフリーセックスが奨励されるのは面白いと感じた。ただ、文明か野…

国立西洋美術館常設展

科学博物館を経て、西洋美術館へ。こちらも同じく無料。ありがたい。 疲れていたので、軽い散歩のつもりで入館。ロダンの彫刻が飾られた入り口では、肉体美とマッチョイズムの連関についてぼーっと考えていた。お次は中世ゾーン。キリスト教の教養がないので…

国立科学博物館常設展(日本館)

日本館の常設展に行った。大学のカードのおかげで金はタダ。サイコーだね。 まず観たのは、常設展の中の企画展(矛盾!)「電子楽器の100年」。梯郁太郎、冨田勲、レオ・テルミンの生涯が紹介されていた。思いのほか小さくて少し残念だったけど、本物のMC-8…

ダグラス・サーク監督『悲しみは空の彼方に (Imitation of Life) 』

「親殺し」の物語であったと思う。同じ屋根の下に住む白人の母娘と黒人の母娘(娘は白人とのハーフ)が、それぞれ子を愛し、親を疎む。その様は原題が示すように、非常に「似ている」。 白人の母ローラは、役者としてスターダムを駆け上がり、売れない時期に…

村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

キツい…… 新興住宅地の空虚さ、スクールカースト、そして性の衝動がこれでもかと描かれる。このまま読むのをやめて、ゴミ箱に本を捨ててしまおうと何度も思った。ただ、「これは絶対に読まなくてはいけない」という直感に支配された。苦しみながら読み続ける…

友人Mの小説

https://ncode.syosetu.com/n1676fx/ 友人Mが書いた小説を読んだ。 人生をぶつけた作品だということがすぐにわかった。でもこれは、作品が優れているからなのか、僕がMの人生をある程度知っているからかはわからない。 音楽と哲学への造詣の深さ、病による苦…

東京芸術劇場presentsマーラー《交響曲第3番》

指揮: 井上道義 管弦楽: 読売交響楽団 アルト: 池田香織 ーーーーーー 愛知の知人にチケットを貰い、ミッキーのマラ3へ。聞きしに勝る指揮者の芸人ぶりに驚愕しつつも、その確かな腕前には感嘆。 マーラーの特に3番は、起伏が激しすぎてついていけない箇所が…

村上春樹『女のいない男たち』

短編集。 ●「ドライブ・マイ・カー」 俳優の主人公、今は亡き妻、その妻と体の関係にあった俳優をめぐる欲望の三角形が示される。三人が同時に登場することはなく、「女性の不在(死)」のもとで俳優二人が酒を飲んだ様子が、女性のドライバーに語られる。綺…

田中雅一『射精する性』

①性科学書・性マニュアル 性欲・勃起・射精は「自然」なものとされ、どれか1つが欠けても病気とされる。この延長線上に「排泄行為としての性行為」という語りが登場し、そこでは女性は「便器」とされ、そしてそれは快感とされる。このような言説を「排泄・…

稲垣重幸『ポルノグラフィの害悪再考』

ポルノグラフィ規制を支持したカナダのソピンカ裁判、およびその判事を批判する論文だけど、まずフェミニストを一枚岩で捉えすぎという指摘が、次に「女心と秋の空」とか「女史」という言葉を平気で使う無神経さの指摘ができる(差異派フェミニズムが男女の…

真部清孝『『ポルノグラフ』あるいはポルノグラフィックな支線の誕生』

●語の歴史 1769年にレチフ・ラ・ブルトンヌ『ポルノグラフ』において「ポルノグラフ」という単語を初めて使用したが、それは「売春について論じる作家」という意味。その後「ポルノグラフ」の意味は変わったため、「売春」に関する構成の著作において本著は…

江口聡『ポルノグラフィに対する言語行為的アプローチ』

1議論の背景 「道徳規範の維持」でなく「女性への差別撤廃」という観点から行われた、1980年代のマッキノンによる反ポルノ運動を取り上げ、それが「言論の自由」を侵害するものであるという批判が紹介される。 2 ポルノグラフィに対する1980年代までのアプ…

ソポクレス『オイディプス王』

いや、あの『オイディプス王』である。ついに。 古典というものは、読む前から結末を知っているものと相場がきまっている。僕もフロイト先生の「オイディプス・コンプレックス」をチラ見した結果この作品の結末を知り、ストラヴィンスキーの「オイディプス王…

あさなさくま『あさな君はノンケじゃない!』

全体を貫く明るい雰囲気が素敵だったけど、作者の方が書かなかった・書けなかった苦しみにはどのようなものがあるのかなと思った。 2019年12月3日読了

伊藤比呂美&上野千鶴子『のろとさにわ』

伊藤比呂美の朗読を初めて聴いた時、その音楽性に驚愕し、絶対にこの人はミニマリズムの影響を受けていると思った。のちに個人的にお話しする機会を何度か得て、伊藤さんがクラシック音楽ファンであること、そしてスティーヴ・ライヒファンであることを知り…

辻原登『Yの木』

4つの物語からなる短編集。 ●「たそがれ」 正直なところよくわからなかった。とりあえず一箇所だけ引用。 本を読みなさい。何ちゅうても、本を読んでる人間が最後は勝ちや。お姉ちゃんはそう思うのんよ。どんなに喧嘩強うても、頭が良うても人柄が良うても、…