電脳けん玉職人

らくがき

岡上淑子『美しき瞬間』

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素晴らしい画集であり、素晴らしい詩集であり、素晴らしいインタビューであると思う。


混沌とした世の中において、混沌としたコラージュはなぜか安らぎをもたらす。僕は『白い花束』を観て、家に帰ってきたような気持ちになった。それは画面左手に広がる美しい黒が、幼少期の家族団欒の中でふと気がついた台所の影に重なったように思えたからかもしれないし、画面右下でポーズをとる人物が滑稽だったからかもしれないし、猫が可愛かったからかもしれない。


ウーマン・リブの旗手、田中美津は「とり乱し」という概念を「発明」して、混沌とした世の中や混沌とした自分のあり方をきちんと引き受け、その上で矛盾や葛藤を探っていくという姿勢を示した。それは「矛盾している。はい論破」といった、冷静と理知を装った嘲笑とは真逆の立場だ。


コラージュもとり乱しも、異なる要素が存在する様をそのまま引き受けている。その様は「共存している」といった言葉では形容し難いし、弁証法的な「一つになる」という概念ともかけ離れている。ただ、そこにある。その様が示される。


コラージュととり乱しという異なる要素を散りばめて、「様々なものが様々に存在している」という様を文章そのもので表現してみようと思ったけど、これもまた多様なあり方を「多様なあり方が大事」という一つの概念に収斂させてしまう、一つの暴力なのかもしれない。多様さを体現するツールは、文章でもなく、絵画でもなく、「生き方そのもの」なのかもね。


2019年11月28日(木)読了

 

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