電脳けん玉職人

らくがき

辻原登『Yの木』

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4つの物語からなる短編集。


●「たそがれ」


正直なところよくわからなかった。とりあえず一箇所だけ引用。


本を読みなさい。何ちゅうても、本を読んでる人間が最後は勝ちや。お姉ちゃんはそう思うのんよ。どんなに喧嘩強うても、頭が良うても人柄が良うても、走りが速うても、本を仰山読んでる人には勝たれへんのよ


基本的に賛成だけど、本は勝ち負けのために読むわけじゃないよってことと、最後のシーンにまとわりつく悲劇的な雰囲気はあまり好きじゃないことだけ付記しておく。


●「首飾り」


4人の女性と2人の男性をめぐるホモソーシャルな物語なのかなと思ったが、作家とYの妻の関わり、Yと主人公の妻の関わりがほぼ示されていないことを考えると、これは「女性×2(主人公の妻とバーのママ)と男性×1(主人公)とホモソーシャル的関係と、女性×2(Yの妻とYの愛人)と男性×1(Y)のホモソーシャル的関係が、男性同士のつながりで接続している」と捉えた方がいいのかなと思った。もしくは主人公、Y、一般名詞としての女という三項を設定して、「一般名詞としての女」の具体的様相が主人公とYで異なる様を描いていると捉えるのもアリかも。

可能性としては妻同士と男性1人の三角形が2つ(主人公版とY版)と捉えることもできるけど、特にYの妻の存在感の薄さからそれは成り立たないかなと感じた。


●シンビン


ラグビーの試合と、主人公の破滅が並行して語られる。ラグビーのルールをわかっていれば、もっと細かい対比に気付けたかも。


●Yの木


うーん難解。コラージュ的。「和歌山」「大学教員」「妻のピアノ」「Y」など、これ以前の短編と接続する予兆だけ示されて、特に回収されない。まあ回収を前提とした読み方に対する(作者が意図したかは別として)アンチテーゼになりえるかなあと思った。

 

2019年12月2日読了